
① 0 1 1,000 10,000 10,001
いったいこれは何の数字でしょう?
仕事には、いろいろなタイプがあって、それぞれ求められるスキルが違います。
要は適所適財の精神で、もっとも得意な領域に最適な人財を配置するのが正解です。
以下詳細に解説していきます。
●0⇒1
これはまったく何もない、しかも前例がない状態から事業を立ち上げるパターンです。
前例がないわけですから、ここを担う人財に求められるスキルはプロトタイプを構築する仮説立案力が全てと思われるかもしれません。
ところが、この段階で最も大事なスキルは、データベース構築力とアナロジー能力なのです。一般にはここをイノベーション領域と捉えます。
なぜデータベース構築力とアナロジー能力が大事かという理由は②で後述します。
●1⇒1,000
これは上記0⇒1で創造したプロトタイプをアーリーアダプターに訴えかけ、一定規模の市場を早いスピードで構築することを指します。
ここで大事なスキルは、上記プロトタイプの提供する価値をどういう人が求めているかを察知する能力です。創造したビジネスの最も根幹となる今までと違う価値、それが今までの概念と何が違うかをシンプルに切り出し、その今までと違う価値を喉から手が出るほどに希求している人や組織を探し出すという事です。
この段階で必要な工程がイメージターゲットの設定です。
対個人のBtoCであれば年齢・性別・職業・年収・家族構成・趣味、趣向・住居・生活エリア・ローン残債・投資額・ITリテラシー等々緻密に設定し、1人の架空のパーソナリティ(ペルソナ)を創りだし、その架空パーソナリティに近いリアルな個人を探し出し、インタビューをし、そのプロトタイプに興味があるかないか、欲しいかどうか、欲しくないとしたならば、どこを修正すべきかを聞き出し、必要に応じてその設定した個人の欲求ゾーンに入るまでプロトタイプにアレンジを加えていきます。
例えば、1億円の市場を立ち上げる必要がある場合、単価10万円であれば1,000人の欲求ゾーンに入ることを求められるわけです。
●1,000⇒10,000
これは、ある程度見えてきた市場ボリュームを極大化させるもので、上記の例でいえば、1,000人の欲求ゾーンに入っていたものをその10倍の10,000人に拡大させることを指します。もっとも簡易なパターンですと、セグメントの一部のレンジを修正するだけでそれが可能になるかもしれません。
例えば、イメージターゲットの年収が800万円であったものを上下100万円まで幅を拡大してみるとか、東京都在住者限定だったものを隣接する神奈川県、千葉県、埼玉県の通勤圏まで拡大してみる等です。
0⇒1や1⇒1,000の段階ではあまり役に立たなかったビッグデータがこの段階になるとパワーを発揮する可能性があります。この段階で求められるスキルはニーズの塊を切り取る能力です。
1⇒1,000の段階で設定したイメージターゲットを同質の軸で引き延ばした時、どこを引き延ばせばもっとも効果的にボリュームを伸ばせるかの判断力です。年齢なのか? 年収なのか? 居住エリアなのか? ある種シミュレーション能力と言いかえることができるかもしれません。
●10,000⇒10,001
これは、できあがったビジネスモデルを維持・向上させる状態を指します。
革新よりも保守的姿勢が重視されます。コツコツとルーティンをこなし、バグを発見・修正し、顧客クレームに真摯に向き合う。これは能力というよりも責任感というべきものかもしれません。
② イノベーションはマジックなのか
ここまで書いてくると、すでにお気づきかと思われますが、今日本企業に求められている固定概念を打ち破るイノベーションは決してマジックではなく、適材適所の人財配置が成否のカギを握るということです。
下記にイノベーションの各段階に求められる人財能力イメージをまとめてみます。

最も創造力が求められるとされてきた第一段階においてさえ、最も必要なスキルはデータベース構築力とアナロジー能力なのです。
これは何をいっているかと言いますと、0⇒1の中では、今まで世の中に無かった価値を生み出す工程なので、何が今までの固定概念であったのかをまとめる事が最も大事なわけです。良く思考のトレーニングでこんな問題を出します。
「お題:斬新なバッグを考えてくだい!」
そうすると皆さんA3の紙にああでもないこうでもないとブツブツ言いながら思い思いのデザインを書いていきます。
3点式ベルトで体に固定するものや、犬のリードのようなものをつけて引っ張るものや、蛍光塗料で全面カラーリングしたものや、カーボンと革を組み合わせたもの・・・・・。
一見いずれも斬新といえば斬新です。ところが、以下の基軸を打ち出した瞬間に、A3の紙に書かれたバッグはいずれも斬新なものではなくなってしまいます。
今までの既知のバッグ:どこか体のどこかに触れるもの
VS 斬新なバッグ:全く体に触れないもの
上記のバッグの例にように、世にあふれている既知のものを1つのグループに入れ込み、そのグルーピングとは違う基軸を打ち立てられるかが問われるわけです。ですからデータベース構築力と表現したわけです。
また、新しい基軸を打ち立てる際のヒントとして他分野からヒントをもってきた方が早いわけですからアナロジー能力と表現したわけです。
大企業であっても、このようにイノベーションの各段階に求められる能力要件をしっかり見極め、定義づけ、人財配置を行っている企業は少ないはずです。なんとなく独創性がありそうだから、なんとなくユニーク、以前ヒット商品を創ったという理由で貴重な人財の配置をしている限り、なかなかイノベーションは起こらないはずです。
③ オープンイノベーションとダイバーシティ
実は、オープンイノベーションとダイバーシティの狙っているところは同じです。
オープンイノベーションでは、ある特定のDNAを持った企業内では、限られた枠内でしかアイデアが出てこない。であるならば発想段階で自社とは違うDNAを持った企業とコラボレーションをして斬新なコンセプトを生み出そうというものです。
一方、ダイバーシティは、わが国では政府主導で女性管理職比率を上げようということをやっていますから、女性ばかりに目がいってしまいますが、本来ダイバーシティが狙っているのは、特定市場のキーパーソンに近い属性のキャラクターを社内に取り入れ、製品開発のヒット率を上げるための手法なわけです。
単に製造拠点として海外進出してきたのは昔の話で、進出先の市場シェアを取っていかなければ、おおむねシュリンクする我が国市場をカバーすることができないわけで、本来であれば、進出先のナショナルスタッフを意思決定にどんどん取り入れていかなければ、その国の本当のニーズはくみ取れないはずです。
④ 内なるイノベーションの大切さ
イノベーションを今後本気で起こしたいと願うのであれば、イノベーションの各段階に最適な人財配置が必要ですし、ダイバーシティをお題目ではなく、市場戦略と合わせて戦略的に実行していく必要があります。
つまり、異質を求め、尊敬し、お互いを高めあう姿勢が本当に求められるわけです。ところが国内、海外問わず現場で見かけるのは、自分達と違うからという理由での排除合戦、出る杭は打つという伝統芸能の数々です。先はまだまだ遠いと実感しています。
日本企業がグローバル市場で勝ち進むためには、何千年も続いたメンタリティの変革が求められています。ここ数年現実に起こっているのは、これら内なるイノベーションを実現し、業績が好調な企業に、内なるイノベーションの大切さに気付かず、イノベーションを起こせず(=世の中に新しい価値を提供できない)、買収されてしまうケースです。企業経営を支援する経営コンサルタントの立場からすると忸怩たる思いをします。
もし、これを競争ととらえるならば、日本企業は、内なるイノベーション競争に後れを取っていることを認識する事ができれば、反転攻勢にでるチャンス到来です。
御社もしくは貴職は、横並びで様子をまだ伺い、改革スタートを遅らせますか? 今から何年様子を伺い続けますか?
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