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第23回 顧客創造のためのバリュー・チェーン(思いの連鎖を切らさない)

津田識義








1)VUCA時代の顧客創造


 P.Fドラッカー氏の「企業経営に必要なものは顧客創造とイノベーション。これだけだ」という言葉が今後も有効であるとするならば、そろそろこの不透明・不確実な時代の顧客創造の方向性にそろそろ言及しなければならないタイミングと考えます。

 そもそもマーケティングとは「売れる仕組みづくり」の事ですから、ここ数年業績が伸びていないならば、マーケティングが機能していないと判断しなければならないでしょう。


●良くある現象その1

 業績が落ちてきたので、営業部門を強化。役職定年後の人財は営業職に配置転換。そもそもマーケティングが機能していれば営業機能はいらないのですが、マーケティングの弱さを営業のマンパワーでカバーしようという逆転現象が起きています。

 自社が提供しているバリューとそのメリットがターゲット顧客に適切に伝達できているならば、プッシュ<プルで今の時代は十分にやっていけます。営業のマンパワーを増やす前に、自社が提供しているバリューが弱まっていないか、ターゲットニーズが変化していないか、伝達方法が適切か等々のチェックが必要です。

●A事業部は好調なのに、C事業部は衰退の一途。AとCが全く違う商材を扱うというのはまれで、何かしらシナジーがあるケースが多いです。それが生かされていない。A事業部長とC事業部長が出世競争していればなおさらです。

 この場合は、最適なバリュー・チェーンが構築できていない可能性が高いです。例えば、A事業部がキッチン周りの商材を扱い、C事業部がエクステリア関連を扱う事業だと仮定しましょう。A事業は水回り工事が主体でC事業部は外溝工事が主体になるため、事業や部門を分けるのは会社の理屈としては至極当然ですが、こんな顧客がいる場合、その事業部の仲が悪いことが致命傷になることがあります。

 そのXさんという顧客は以下のことを考えています。Xさんは飲食店数店舗のオーナーで、キッチンと庭に一体感があり、本当に自分が居心地がよいと思える空間を自宅に造り、それが良いものであればそのリフォームに5千万程度費用かかっても安いと判断しています。なぜならば、Xさんは新店のコンセプトを「室内とガーデンが一体感を持った鎌倉で最も居心地の良い空間」としていたからです。

 要するに自宅はその実験場だったわけです。新店が成功すれば数千万の工事費はあっという間に回収してしまいます。そんなニーズを持っているXさんに対してA事業部とC事業部がそれぞれ既製品の最上級品を個別に提案してきました。価格はトータルで数百万円。コンセプトはバラバラです。もったいないですね。そこで4千万以上のチャンスを失ってしまったわけで、しかもそれは自宅だけですから、上手くいけば十億程度の店舗展開に食い込める可能性を失ってしまいました。




●具体例:最近、売上を急増させている会社があります。内装のリノベだけでなく、外構工事もワンストップで実施してしまうという目の付け所が卓越した会社です。快適なリビングとともに、快適な景観が完成する。顧客が求めているにはもっぱら居心地の良い空間なわけですから、これは大正解だと思います。



2)内なる掛け算(まずは社内の壁を撤去)

 

 不思議なことに、多くの企業の経営理念には大概顧客満足の最大化等々記述されているはずなのですが、それが事業部や部門におちると見えない壁が邪魔をして、自事業部や自部門が扱う製品内での顧客満足No1というふうに概念が変化してしまいます。

 一方で当然のことですが、顧客にはそんな社内事情はまったく関係ありません。単純に、自分のイメージを具現化してくれる組織・企業を選ぶだけです。

 なぜ、今多くの企業は、そのような大きな顧客のニーズに応えられないのでしょうか。

 つまり、ニーズに応えられない=売れない理由の一つに視野の狭窄という問題あります。一度上手くいったパターンに固執してしまい、そのパターンで動くことがいつのまにか最優先にされてしまい、社員が日々頑張れば頑張るほど、顧客との距離が開いてしまうという現象、言い換えますとバリュー・チェーンの崩壊がおきています。

 そもそもバリュー・チェーン(Value Chain)とは、マイケル・ポーターが著書「競争優位の戦略」の中で用いた言葉ですポーターはバリュー・チェーンの活動を主活動と支援活動に分類し、主活動は購買、物流製造、出荷物流マーケティング・販売、サービスからなり、支援活動は企業インフラ、人材資源管理、技術開発、調達から構成されると定義しました。バリュー・チェーンという言葉が示すとおり、購買した原材料等に対して、各プロセスにて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいたもので、(売上)-(主活動および支援活動のコスト)=利益(マージン)と表現されます。

 企業の競争優位は確立するためには、主活動の構成要素の効率を上げるか競合他社との差別化を図ることが考えられます。なお、バリュー・チェーンが企業の競争優位性をもたらす理由は、企業内部の様々な活動を相互に結びつけることで、市場ニーズに柔軟に対応することが可能になり、結果として顧客に価値がもたらされることに求められる。

 つまり、コストリーダーシップ戦略をとるにせよ、差別化戦略をとるにせよ単にそれを引き出す為の個々のシステムを独立して構築するのではなく、それらを上手く連結させ顧客に伝達することが大事ということです。



3)オープン・マーケティングへ


 ニーズが多様化・高度化、しかもこれからはグローバル市場での競争なわけですから、この内部のバリュー・チェーン崩壊による顧客ニーズとのミスマッチは今後大きな足枷となってしまうでしょう。

  まずは、上述の通り、内部からの立て直しが急務であり、その先にやるべきことが待ち構えています。

 それは、オープン・マーケティングです。単純に考えてニーズが多様化・高度化している現在、自社のネットワークだけでそれをキャッチすることが難しい。自社内のリソースだけでマーケティングをすることをクローズド・マーケティングと表現すると、その逆の概念で、オープン・マーケティングと名付けたいと思います。

 本来顧客に提供したい、もしくはすべきバリューは何かを定義付け、各バリュー・チェーンでの過不足を分析し、自社でできないもしくはリソースが不足するものは他社とネットワークを組み、最強のネットワークで最高のバリューを提供するという発想です。



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