1)経営と執行の違い
ここで言う経営とは、全社のビジョンと経営戦略の設計及び全社に影響を与えるコミュニケーション力と部門責任者の育成と配属を指し、執行とは、経営で決められたフェアウェイ上で目標達成のため、与えられた経営資源を駆使し、最大成果を目指す行動を指します。
簡単に言い換えますと、経営とはどこを目指し、どうすべきかを決定し、執行とは、その枠の中で最大限パフォーマンスすることを言います。
200人規模の中堅企業で言いますと、経営に入る人財は5名前後。役員会のメンバーで、会社のまさに頭脳の部分で、それ以下の195名は執行の役割を担います。
このような人数構成ですので、一般的に会社での仕事といいますと、どうしても執行領域をイメージしてしまうケースが多いのですが、戦略を間違えてしまうと、現場がどれだけ頑張っても挽回するのは難しく、「八甲田山死の彷徨」で徳島大尉(弘前歩兵第31聯隊福島泰蔵大尉がモデル)と神田大尉(青森歩兵第5聯隊神成文吉大尉がモデル)2トップの判断により、両チームともに、現場の下士官達は命賭けで頑張っていたにもかかわらず、一方はほとんどが死亡する結果となり、もう一方はほとんどが生存するという残酷なまで結果に大きな違いがでてしまいます。
2)執行力>経営力の日本企業
昨今は、多くの企業にとって、国内市場のシュリンクが大きな脅威になっており、そのシュリンク分を補おうと海外市場を取りにいかざるを得ないという状況です(昨今の円安傾向で状況は変化しますが・・・)。
日本企業は人件費コストと材料費の安さに目をつけて進出していった歴史がありますから、どうしても経営といっても執行に近い人財(≒工場長レベル)が2階級特進で海外のMDに就任することが今でも行われています。人財育成の面でも、技術・品質向上が優先されOJT中心、しかも技術中心の教育が中心であり、その進出先の国から経営人財を輩出するという発想が見られないため、就職先として敬遠されるという現状があります。
日本企業に勤めると優秀なオペレーターにはなれる(ただし、汎用性なし)。しかし、経営人財にはなれないという構造です。一方、外資系企業では、高い給与で良い人財を吸引し、自社でしっかり教育し、早い段階で経営に携わってもらい、激変する経営環境の中、経営判断を的確に行うことを実践で試され、小さなトライ&エラーを積み重ねながらその判断力をさらに磨いていっているわけです。海外に進出して長年経過しても、その国のシェアが取れない理由はそこにあります。
3)業績を上げながら人を育てる
なぜ、日本企業では、経営人財を育成することに熱心ではなかったのか。
中小~中堅のオーナー企業においては事業継承のタイミングが直近に迫ってきて始めて人財育成をスタートする企業がほとんどです。
今まで様々なケースを経験していますが、人財育成に対する大枠の見方は以下の3パターンに集約することができます。
このような日本企業の特性をふまえると、業績を上げながら人財を育成する2兎を追う方法でなければ、オーナーが安心して人財育成に継続的に、しかも早期に取り組むことは考えられないと思うわけです。では、どうやって、2兎を追うのか?その具体論は次回以降で詳細に解説します。
4)人財開発部門6つのミッション
中小~中堅企業のオーナー自体が上記3パターンの意思決定を行う傾向が強いわけですから、人財育成の責任を持つ人財開発部は、以下6つのミッションを常に意識しておく必要があります。
(1)MISSION1.経営の要望に応える人財を安定的に輩出するシステム構築
■ 優良な経営人財の安定供給
■ 人財育成体系に対する合意
■ 定期的なトップとの話し合い
⇒常時優秀な人財を一定数保持しておく=タレントプールをつくる
(2)MISSION2.現場ニーズに即した教育の実施
■ 戦略を実践し、成果を出し続ける人財を創り出す教育方法・コンテンツの追究
■ 現場責任者との徹底的な話し合い
(3)MISSION3.初期段階の教育の徹底
■ 30才前後までに初期教育を済ませる
■ Vision浸透の徹底
(4)MISSION4.社会的・地域の要請
■ コンプライアンス実践
■ ダイバーシティ実践
■ グローバル展開
(5) MISSION5.人財マネジメント機能との連動
■ 人財マネジメントプロセス全体を通じて人財を開発するバリューチェーン創造
■ 昇進・昇格・配置・異動・評価・報酬システムの整備
(6)MISSION6.人財育成の目的・内容のアナウンス、現場との協力体制
■ 社内周知の徹底
■ 現場責任者との関係性強化
以上、6つの基本ミッションを念頭に置き、
「戦略目標達成のための人財供給のバリューチェーンの要となる。」という覚悟が必要になります。
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