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津田識義

第46回 バランス感覚

●最近、ある都市への出張中、ホテルのロビーに置いてあった朝刊の1面の「教科書【紙】に回帰」という見出しが飛び込んできました。

 記事の内容を要約しますと、IT先進国のスウェーデンで、2006年に学習用端末1人1台配備が広まり、教科書を含めデジタル教材への移行が進んだものの、昨年学習への悪影響があるとして紙への教科書や手書きを重視する「脱デジタル」に大きく舵を切ったとあります。


 OECDによる2022年国際学習到達度調査では「読解力」と「数学的応用力」「科学的応用力」の全てで前回18年調査から順位を下げてしまったそうです。



【参考:国際学習到達度調査結果2022年 上位抜粋】


※我が国は 1981 年に世界一になったものの、その後順位 を落とし続けている。一方、シンガポールは 1995 年以来、学力世界一となっている。小国シンガポールにとっては人材育成が国家の要であり、教育重視政策の成果であると言える

 

 

●タイでの驚き

 もう10年以上前ですが、タイのバンコクで仕事をしていた時、全小学生がタブレットを所有していて、紙の教科書を使用していないという事実を知って、我が国に比べると相当進んでいるなあと大変驚いた事があります。

 それにもかかわらず国際学習到達度調査では上位に食い込むことはできていません。その当時育成していたタイのマネージャー達(大学、大学院卒中心)も、思考力がどうしても弱く、問題解決がなかなかうまく進まなかったので、直接聞いてみました。「どうして原因がわからないんだい?」と。

 彼等の答えは、タイは日本よりも詰め込み教育が激しく、思考力を鍛えるプログラムがなく、正直、記憶力さえあれば上にいけるというものでした。

 

●日本の現状

 日本のICT教育は環境整備の遅れや意識格差・人材不足など課題が多く、電子黒板やタブレットの導入など、ICT先進国は日本の数歩先を歩んでいる状況で、IT企業が積極的に導入を促進するように動いているのが現状です。

 この状況は果たして吉なのでしょうか、それとも凶なのでしょうか。

 

 

●1位独占のシンガポールでは・・・

 シンガポール政府は1997年にIT教育マスタープランを策定し、情報教育を先進国並に引き上げることを目指しました。

 学校においては生徒2人に1台のPC環境が整えられると同時に、授業の30%は ITを活用したものとされている。さらに、シンガポール教育省は自宅にPCがない児童・ 生徒の家庭に中古PCの配布を行い、この 結果、就学年齢の子供を持つほとんど全ての家庭が PCを保有することになり、 PCを利用した家庭学習を可能にしている。

 

 シンガポールでは小学校1年生から PC を利用した教育が開始される。

 小学校1年生で、タイピング・ワードプロセッサを学び始める。

 小学校4年生・5年生の成績上位コースの児童に必修とされる IT 技術が存在。

 中学校の高才班コースでは、1年次にC言語およびJavaスクリプトによるHTMLプログラミングを学ぶ。ただし、コンピュータ言語教育は少数の成績上位者が対象である。


 シンガポールの教育制度の中では、コンピュータはあくまでもツールであると位置づけられ、アプリケーションソフトは各科目の学習の中で必要に応じて習得することが基本となっている。

 

●結論:バランスが大事

 デジタルが得意なところと、アナログが得意なところを組み合わせるのが大切かと考えます。

 体育の動きを伴った動作・ルールの解説、例えばサッカーのオフサイドを紙面で説明するよりは動画で見た方が理解力は高まりますし、家庭科の料理、音楽、数学の立体の問題、英語の発音、会話のシーン等々・・・圧倒的に動画の方が効果的に理解を促進できる内容があるはずです。

 一方、時間をかけてじっくり思索を深めたり、自分の想いを言葉に乗せる場合などは紙と鉛筆の方が効果的な場面があるはずです。それらを最適に組み合わせることができれば、我が国の学力も上がってくるのではと伸びしろを感じています。

 日本はICT教育先進国に比べると相当遅れをとっておりますが、これはかえってその効果を見極め、最適なバランスのビジョンを描くための最大のチャンスなのではないかと考えております。

 

●以上を踏まえての提言:企業でも

 デジタルとアナログの最適バランスのガイドラインを持って活用している企業はあるのでしょうか?

 少なくとも学校よりもデジタル化が進み、皆PCやタブレットに向かって仕事をしています。上記の観点を取り入れると、思考力・想像力・企画力等が向上する余地がまだまだあるかもしれませんね。


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