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第1回 Withコロナの時代を乗り切る経営者の心構え

津田識義






1)まさに、今がVUCAの時代

 Withコロナの時代になってしまいました。我々にとっては数年前から言われていて、何となくとは理解していたつもりのVUCA という言葉を、身をもってわかりやすい型で直面することになってしまいました。Withコロナの時代の経営者は、以下4点のVUCAな環境に取り囲まれています。かつてVUCAでなかった時代はなかったものの、今の時代はインパクトの範囲・大きさがケタ違いなのです。どんな大企業であろうとも数十年にわたる実績・知名度があろうとも、舵取りを間違えるとあっと言う間に荒波に呑まれてしまいます。

 もともと経営者は、孤独なもので、社内では不安な気持ちを吐露する相手もいなければ、場所もない。ストレスチェックに追われる総務・人事担当を横目に、「カウンセラーに今一番相談したいのは俺だ」という本音を噛み殺し、今日もきわどい判断をしに執務室に入ってきます。

 今一度、VUCAの概念を整理しておきます。


●不安定な時代:Volatility

「経済リーダー国の相対的地位低下により、経営環境の変化が激しい」

 中国国家の発表数値が正しいのであるならば、失速したとしてもGDPは4~6%、インドの伸びも著しく、ASEANも順調に発展してきています。それらの勢いに比較すると経済先進国の伸びは相対的に落ちてきており、どの経済先進国の企業も自国内に活動範囲をとどめていたのでは衰退することが見えてしまっていて、海外のどの国に設備投資をし、マーケットニーズを掴み、長期的安定基盤を築くかが企業存続の大きなテーマになっています。


「先行きを見通すことが難しくなっている 」

 では、どの国に重点を置くべきか。グローバル競争がデフォルトになった現代においては進出先を単なる製造拠点として位置付けている企業はごく稀で、進出国のマーケットを取りにいっているケースが増えてきました。自国市場のシュリンク分をそこでなんとかカバーしようとしているわけです。

 少し前であれば7%近くのGDPを毎年叩き出していたタイランドであれば、投資先としては安心と思っていたら、政情不安が襲ってきました。それに続いて中国のバブル崩壊。自国以外にあと1ケ国くらいにしか投資余力がない中小企業では、ポートフォリオでリスクヘッジをするという対策をなかなかとれないので大変厳しいバクチに近い経営判断になってしまう恐れがあります。


「どこに落とし穴があるか読み切れない」

 周辺の環境が不安定であればあるほど、すべてのリスクに対し、全方位で対策を取っておかないと不安感がさらに増してきてしまうでしょう。ただし、それができるのも資金と人財に相当余裕のある企業に限定されてしまいます。逆に余りやりすぎてしまうと、前に進みにくい保守的な企業体質になってしまいます。守りに徹して勝てる業種であれば、それはそれで正解なのですが、大枠はシュリンクする国内シェアをカバーするために、外に出ていくハンターにならなければ勝ち抜いていけないというのが日本企業の実態です。

 であれば、リスクに優先順位をつけて対処しなければならないのですが、優先順位を導くための過去の基準・法則は役にたたないので、相当な努力により、新たな知恵を絞りだす必要があります。


不確実な時代:Uncertainty

「旧来の成功法則、ビジネスモデルが通用しなくなっている」

 一昔前は、市場を席巻していたSHARP社の液晶テレビ。国内のみならず、海外の家電量販店の目立つスペースを占めていました。それが数年前から韓国のSAMSUN、LG社製に目立つスペースを譲り渡しております。

 バンコクの家電量販店店頭で私も価格調査してみたのですが、50インチのハイスペックのもので、韓国勢の製品が日本製に比較して40%~50%の価格で販売されていて、しかもユーザー視点からは画質もほぼ同程度に感じました(技術的な詳細の差はわかりません)。これでは日本企業は厳しいなあと実感したものです。

 それから数年後に液晶事業からの撤退を余議なくされました。リビングにやってきたお客様が、世界の亀山工場製というシールを見つけて「おっ!亀山だね」と言っていた時から10年も経っていません。完全コモディティ製品となる前に、ビジネスモデルを変革していかなければならない局面になってきました。


こうすれば、こうなるという仮説が立証できない  

 「勝ちパターン」。これがなかなか構築できないわけです。例えできたとしても、その耐用年数がきわめて短いわけです。ここで考えなければならないのは、世界戦で勝てる可能性のあるビジネスモデルを短期間に立ち上げ、連続的に第2段、第3段に切り替えていく思い切り、大胆さ、しなやかさが必要になってきています。


●複雑さの時代:Complexity

グローバル競争の中で、競争優位を築けない日本企業

 バーニーしかりポーターしかり、競合との差別化が勝敗を決すると、分厚い本には書かれております。ポイントは、知財でしっかり押さえるか、圧倒的コスト差で勝負するか、サプライチェーンの総合力で勝つかといったところでしょうか。

 いずれにしても、顧客に提供する商品・サービスがコモディティ領域に入ってしまうと、海外企業とのコスト競争で四苦八苦してしまいます。

 つまりSWOT分析で設定するライバル企業が国内企業とは限らず、しかも複数社出てきてしまうので、その対抗策を導きだすのは非常に難しくなってきております。


急がれるグローバルニーズへの対応

 日本企業の場合、海外との人件費差に目を付けて海外進出を展開してきた歴史がありますので、どうしても、進出した国のマーケットニーズをくみ取る力が弱い傾向にあります。しかもメーカーの場合、日本から派遣される人財が現場に強い技術者が中心になっており、今後必要なマーケティング力をもった人財は本国からの囲い込みにあい、海外になかなか出られない傾向にあります。


破壊的イノベーションにより、ライバルが異業種から出現する

 様々な教育機関で戦略教育を受けたもしくは勉強好きなマネージャーはSWOT分析が大好きです。現場情報を織り込みながら、みんなで協力しながら創ると盛り上がる場を創りやすいという事と、実践で活用しやすいからではないかと思います。

 ただし、SWOT分析が有効なのは同業種ライバルとの強み・弱みの比較であって、異業種ライバルと比較しても意味がありません。最近では、異業種から強力なライバルが突然現れ(破壊的イノベーター)、自社の存在を脅かすことがよく起こります。


曖昧模糊の時代:Ambiguity

「顧客の嗜好は次々に変化し、製品のライフサイクルもどんどん短くなる」

 拙著「顧客最接近マーケティング」にて、ツボシートなるものを紹介しました。

 要は年齢・性別ごとに興味を持つ対象・コトが違い、特に日本ではその流行の盛衰サイクルがものすごく速く回るので、年に1回の更新は必要ですと書きました。最近は年に1回では遅く、私も1Qに1回の見直しを余儀なくされ、さらにセグメントの大きな軸として、格差社会の影響で年収別に展開せざるを得なくなってきました。


「顧客ニーズが多様化し、明確に捕まえられない」

 ビッグデーターはあくまでビッグデーターなので、顧客の行動の背景までは教えてくれません。顧客の洞察力をもっともっと研ぎ澄ませる必要があります。

 まずは、BtoBにしろBtoCにしろ、自社が最も大事にすべき顧客像のペルソナを明確にし、そのサンプルを徹底追及、調査するほうが、ビックデーターを眺めるよりは、洞察のヒントが得られると考えます。



2)今、そして将来をどう乗り切るか

 はっきりといえることは、経営者が自分のコピーを量産しても無駄ということです。無駄ならばまだよいのですが、マイナスの影響が強くでてきやすくなります。

 なぜならば、今、業績を伸ばしている企業の特徴は、生存領域をいち早く見つけて、いち早くそこに移動し、行動に移すことができた企業といえるからです。

 そんな時代に必要な人財は、鼻が利き、前例がなくとも覚悟を決めてっ突っ込んでいける勇気と行動力がある人財です。はっきりしてきました。







3)果実が欲しければ、土を耕そう

①指示・命令で動く人材では今の時代のりきれません

 経営幹部が指示待ちや前例最重視の姿勢では、その企業は埋没してしまうでしょう。しかしながら多くの企業を見てみますと、そういう人材を育ててきた総責任者は企業トップです。確実な成功パターンがあった時代はそれが正解であったとしても、今~これからの時代は上記の表のとおり、現状からいち早くドメイン(生存領域)をずらしていかなければならない=ビジネスモデルを転換する必要があるわけですから、下からの“本気の“提案数と質が企業の存亡を決めると考えます。


②自分で考え、世の中を切り開く覚悟をもった人財を育てる

 “本気の“提案をしてくれる人財がどれだけ御社にいるでしょうか?そのような人財は普段の火急でないときには鼻につきますから、すでに追放してしまいましたか?社内に残っていればそれは大変なチャンスです。今からでも遅くはないので、発掘し育てていきませんか。


 ちなみに、この文章中、「人材」と「人財」というように、「じんざい」を2通りで表記しておりますが、誤字ではありません。

●人材:損益計算書の人件費で消化される。決まったことを基本受け身の姿勢で受託し、こなしていく

●人財:貸借対照表の資産に計上されるべき(実際は計上されませんが・・・)会社のあるべき道を示し、変革を促し、行動できる。ひと言で言うならば、津田の言う今後価値を持つ“じんざい“とは人材ではなく人財を指します。


③土を耕そう

 たわわに実がなった1本の木をイメージしてみてください。ついつい我々は実のほうに目がいってしまいますが、良い実がなるためには、幹がしっかりしていなければならず、幹がしっかりするためには、良い土の中にしっかりした根がはりめぐらされている必要があります。

 企業経営とは不思議なもので、PL&B/Sではこの肝心な根っこの価値を数値化しないのです。目に見える地表から出ている部分だけが財務数値で表現され、管理されています。最近はこの目に見えない非財務部分の重要性が言われだしていますが、まだまだ大きな潮流にはなっておりません。

 しかしながら、このwithコロナ時代を乗り切るプランを発案し、実行した人財はいずれも大変価値があり、彼らがいなければ当該企業は存続していたかも定かではありません。是非独自指標を編み出し、彼らを評価し、育成し、存在価値を高めてあげる仕組みを構築いただければと願っております。このVUCAの時代を乗り切るキーマンなわけですから。




◆今回は、withコロナ時代の心構えを中心に書かせていただきました。

◆次回第2回目は、afterコロナを見据えていきたいと思います。



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